上海事変、日中戦争、第二次世界大戦、原爆投下を予言

「日本は、負けない。心配せんでよろしい。戦争もやがて終わるやろ。そうしたら、勝ったが勝ったではない。負けたが負けたではない。今度という今度は、どこの国も戦争して得をしたということがないようにするぜ。二度と戦争のできよう、戦争はこれで終わりだということにするぜ」と。

ひじょうに微妙な言い回しではあるが、これは日本の無条件降伏が即、日本の滅亡ではないこと、経済大国として復活すること、またその後の戦争が、一方の圧倒的な勝利に終わるという単純な図式ではいかなくなることを予言している。


敗戦の色合いが濃くなっていた昭和十九年末に、クニは当時の陸軍大佐 白鳥敏夫に、広島と長崎に未曾有(みぞう)の大惨事が起こること、それを阻止するには日本の無条件降伏しか道はないことを告げいる。

白鳥大佐に「命懸けで無条件降伏の政治工作が出来なければ、お前は精神の変調を来す」とクニは強く迫ったが、実際に「そうなった」と芹沢光治良が『人間の運命』(新潮社)で書いている。

白鳥敏夫は晩年、子孫らに対し「神の教えには、決して逆らうな」と言い残している。


昭和二十年に入ると、第二次世界大戦は「日本の無条件降伏で、終わりとなるんや」と予言している。

さらに「日本が戦争をしたことで一つだけいいことがあるぜ。それは日本が占領した外国の植民地を独立国にしてやると約束したことや。良かったということがやがてわかる時がくるぜ」とも言っている。


戦後、北方領土がロシアに占領されたが、それについてクニは「小さな島の一つや二つ、欲しいというなら、やってしまえばええがなぁ。ロシア人は、人がええから、そのうち返してくれるやろ」(これは、北方領土の日本返還の予言であるが、非常に厳しい状況ではある。ただ、未来のことはわからない)


最晩年に、クニが芹沢真一に予言したことがある。

それは「神が、世界をよくするために、これまでいろいろな人間に頼んだが、よくはならなんだ。もう人間には頼まん。神様がするぜ。その時は、こんなことや」と言い、片手を突き出し、その拳(こぶし)をひっくり返した。

「神様がするときは、こうや」

神様が本気になれば、人間や地球などひとたまりもないことを示したものか?その一方で、こうも漏(も)らしている。

「人には、何もしていない様に見えるけど、世界が今後一万年平和に暮らせるだけの、計(はか)らいはしたぜ」

それが、本当だとしたら、けた外れのスケールをもった世界神業といわなければいけない。人間の慢心(まんしん)に警告を発しつつも、人間を愛し、未来に希望を託し続けた人物である。


昭和二十二年九月六日、クニは自らの予言どおり、八十四歳で静かに息を引き取ったのである。