
クニの霊能は、多彩で抜きん出ているが、中でも特筆に価するのが<振動>であった。
「どうか、振動を見せてください」と請われると、クニは障子(しょうじ)の桟(さん)に手を当てる。
すると、その障子が震えたかと思うと、たちまち家の柱や壁が地震のように揺れ、ついには家全体が今にも倒壊しそうな大きな屋鳴りとともに激震するというのだ。
家の中でクニの様子を見守っている者ですら、あまりの屋鳴りと震動に怯えて、思わず立ち上がったり、戸口や戸外に逃げ出す者もいた。
朝日新聞の元記者で共同通信社の支社長でもあった芹沢真一(せりざわ しんいち、作家・芹沢光治良の実兄)は、何度もその現場に居合わせていたが、それでもその都度、あまりの揺れに恐怖を覚えたという。
その様な信じがたい現象を、クニは普通の家はもちろん、神殿でも行っていた。
しかも、老婆の身であったにもかかわらず、時と場所を選ばず、相手の求めに応じて、必ず起こすことができたというのだ。
まさに前代未聞。
クニの超人ぶりの一端が、おわかりいただけるのではないか。

こんな話もある。
「遠慮(えんりょ)せず、押せ」と命じられた力自慢の軍人が、座っているクニを物凄い気合を込めて力いっぱい押したことがあった。
すると、その瞬間、男らは空(くう)を切って部屋の隅(すみ)まで飛ばされていった。
さらに、隣の人の肩に手をかけて数珠(じゅず)つなぎになった大勢の中のひとりに、クニが震動を与えると、連鎖(れんさ)反応的に次々と全員が振動を起こしたという。
それも、普通の生易(なまやさ)しい振動ではない。横倒しになったり。飛び上がって空中で衝突(しょうとつ)したりする者が続出し、クニがその振動を止めない限り振動は止むことがなかったのである。
何らかの「気」を起こしていたとも思われるが、いずれにせよ並みの人間にできることではない。
怪力で思い出すのは、天理教の教祖・中山みきが、やはり異常に力が強かったことである。
クニは、みきと密接な関係があるが、みきがクニのように振動を起こしたという記録は残っていない。