クニは、いながらにして、相手の現在・過去・未来のすべてがわかったという。
一例をあげよう。
ある男が「相談したいことがありまして・・・・」と、話をしようとした途端、クニはそれを遮り「あんた、商売を始めたいというんやろ。商売はあかんぜ。あんたの妻も子どもも、みな反対しておるわな。あんた、百姓(ひゃくしょう)をしているなあ。住まいはここから遠いところではないなぁ」
男は、いちいち頷(うなず)くばかりで、みなクニが指摘するとおりなのだ。
「今までどおり、百姓だけで辛抱(しんぼう)しなはれ。時が経つにつれて良くなるぜ」
男は、黙って頭(こうべ)を垂(た)れた。
するとクニは、右手の親指と人差し指で指の輪を作って「これを開けてみんか」という。
その男は、怪訝(けげん)な顔つきをしたが、気を取り直してクニに近づき、苦もなく指の輪を開けた。その直後、クニはもう一度指の輪を作って、その男に突きつけた後、自らその指の輪を開いて言った。
「これは、あかんぜ」
その瞬間、その男は飛びのき、平伏(へいふく)して言った。
「申し訳ありません」
実は、その男は時折、近所の家の納屋や蔵などに忍び込み泥棒をしていたという。
指の輪は「鍵を開ける象徴」で、クニは泥棒をしてはいけないことを身振りで示したのである。
その後、男は、お供えを神棚の三宝に置き、帰ろうとしたが、
クニは、そのお供えを受け取らず、さらに自分のお金を男に無理やり持たせて言った。
「早う帰って、家内や子どもを安心させておやり。一生懸命、百姓を続けるんやで」
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